心の隙間風
心の鍵
「ただいまー」
そう言って一軒家に入る。誰も居ないのは分かっているが、ついつい声を出してしまう。
がらんとした玄関に革靴を脱ぎリビングへと向かう。
広々としたこの家に今は二人しか住んでいないと誰が想像出来るだろうか。
高級住宅街として有名な場所にある私の家。ほんの1年位前までは両親と共に暮らしていたが、今は母親と二人暮らしだ。
ソファに腰掛けて今日貰ったプリントを引っ張り出す。
特に印鑑を必要とする手紙はないのでテーブルの上へとほっぽりなげる。
二人共会社を経営していて、1年前も家に帰って来てもだれもいなかった。それは変わらないのに、どうしてだか今の方がとても寂しく感じる。
意味もなくテレビを付けて面白い番組を探すがどれもつまらなそうで電源を落とした。
家に帰るとどうしても無気力になってしまう。高校に入って自分を変えようと誓ったのに。はあ、と溜息をついてソファに寝っ転がろうとした時、携帯のバイブレーションが部屋に響いた。
携帯の画面に表示されている名前を見て思わず眉を顰める。どうしようかと思ったが仕方なく電話に出た。