心の隙間風


「…何、お父さん」

「全く、娘の進学を祝ってるのに、そんなぶっきらぼうな態度とるなよなあ」

今更電話されても、と電話越しに怒りをぶつけてしまいそうになる。

入学式が4月10日で、それからもう一週間が経過しているというのに。

4月10日に電話をくれたら、少しは喜んだかもしれないのに。

「なあ、里穂。母さんと暮らすのやめて、父さんと暮らさないか」

何度も何度も聞いた、その台詞。電話をかけてくる場合ほぼ十割の目的がこれだ。

「何度も言ってるでしょ。私はお母さんと暮らすって決めたの」

するとお父さんは小さく溜息をついた。

もともと喧嘩の多い夫婦だった。だけど、互いの利害関係が一致しているとかなんとかで未だに別居状態。私の長野という名字は父親姓である。つまり、二人はまだ離婚していない訳で。

「…里穂、いいから父さんと暮らしなさい。明日、いや…明後日荷物をまとめておくように」

「嫌って言ってるでしょ!…何度も言ってるのに…。お父さんとお母さんの問題に私を巻き込まないで」

「俺たちの娘として生まれてきた以上は関わることも性ってやつだろ。まぁ、明後日、迎えに行くから」

「絶対、こないで!」

私はそう叫んで電源ボタンを押す。一瞬迷ってからもう一度、今度はボタンを長押しした。

気分は最悪だ。


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