First love~awaikoi~
ないか。
僕だって言うさ。
会社の同僚と飲んで帰っても、
付き合いで、仕方なかったんだよ、
ってね」
奥さんに―――そう。ちゃんと私は
見ていた。
その人の左手のくすり指に、リングが
はまっているのを。
「そうじゃないんです」
私は、カバンを開けて、小さな
折りたたみ傘を取り出して見せた。
「―――今日みたいに、晴れるって
予報が出てても、もって歩くんです、
いつも」
「用心深いんだね」
私は、あの横断歩道へ来ていた。
ここに立つ度、突然やんだ雨を、思い出す。
「毎朝、お父さんとお母さん、喧嘩するんです」
と、私は赤信号を見ながら、言った。
「あの朝も―――。だから、傘を取りに
戻れなかったんです。喧嘩してるの、
見たくなくって」
信号が変わった。―――二人は無言で渡った。
私はあの道を上り、この人は、左へまがる。
でも、今日は―――今日だけは。
「お願い」
私は自分でもびっくりしていた。こんなこと
が言えるなんて。
「一緒に歩きたいんです」
やさしい目が、私を見ていた。
「じゃ、行こう」
「そっちでいいです」
と、その人の行く方向を指さす。
「迷子にならずに帰れるかい?」
「ひどい。十八ですよ、もう」
私は、自然に笑った。
その人も一緒に笑った。―――信じられなかった。
こんな風に、二人で笑えるなんて!