First love~awaikoi~
私は目を閉じた。
すると―――夜の静かさの中、
すすり泣く声が、聞こえてきた。
お母さん?お母さんかな。
私は、起き上がった。
夜中に両親がけんかすることも、
めずらしくない。でも、
今聞こえるすすり泣きの声は、
いつもとは違っていた。
どこが、とははっきり言えない。
でも、どこか、「普通ではない」
感じだった。
そっとカーディガンをはおると、
私はドアを開けた。―――階段の
下から、はっきり聞こえて来る。
お母さんの泣いているのが。
「―――いい加減にしろ」
と、うんざりしたようなお父さんの声。
「気がついてただろ、お前だって」
「だって・・・・・・どうするの?」
「どうするも。あっちには金をやって
何とかするさ」
「あなたは・・・・・・」
「なんだ。―――めずらしくもないぞ、
こんな話。出て行くなら行け」
「なんて言い方」
お母さんの声がふるえてる。
「よその女に子供まで作って―――」
「だから、そっちの事は話をつけると
言ってるだろ」
と、うるさそうに言って、
「それ以上、どうしろって言うんだ?」
「―――私はいや」
と、お母さんが言った。
私には見えた。―――ちがう、本当は
階段に座っていたから、見えてはないけど、
はっきりと目に浮かんだ。
お母さんの、あの恨みいっぱいの目が。