First love~awaikoi~
「そうか。僕は左へ行くんだ」
「ありがとうございました」
と、私は頭を下げた。
「待って」
と、行きかける私を、引き止めるように、
「送るよ」
「でも―――」
「一時間は歩かないだろ」
そう言って、その男は笑顔になった。
「五、六分です」
と、私もつい笑っていた。
「じゃ、送ろう。五、六分でも、ずっと
降られて歩くより、いいだろう。それに
上りじゃ、走るのも大変だ」
「いいんですか。―――すみません」
「この傘は大きいからね」
確かに、最近ではあまり見かけないくらい、
大きな傘だった。
私が入っても、そう狭いという感じはない。
上りの道を、並んで歩きながら、私は少し
ずつ体が暖かくなって来るのを感じた。
雨が当たらなくなったせい?
それだけでもないかもしれない。
「遠いんですか」
と私は聞いた。
「十分くらいかな。次のバス停との、ちょうど
中間くらいでね。どっちで降りても大して
変わらないんだ」
と、その人は言った。
「今日は手前で降りて良かった」
私は、こんなに寒いのに、ほっぺがポッと
熱くなるのを感じた。―――なんて優しい
言い方だろう。
そっと盗み見ると、おっとりとした、穏やかな