First love~awaikoi~
横顔が、目に入った。幼い顔立ち、という

のかもしれない、お父さんの顔の気難しい

しわや、イライラしている表情は

どこにもない。

「寝坊したの?」

と、急に聞かれて、私は、慌てて目を前に

戻した。

「いや、今日は降りそうだったじゃないか、

朝から。傘を持ってないのは、寝坊して

あわてて家を飛び出したせいかな、と

思ったんだよ。」

もちろん、気楽なしゃべり方で、別に

答えを期待しているような感じではなかった。

「いいえ・・・・・・。そうじゃないんです」

と、私は答えた。「あの―――傘、持ってたん

ですけど・・・・・・とられたんです」

「とられた?電車の中で?」

「え―――あ、そうです。あの―――ちょっと

立てかけといたら、なくなって・・・・・・」

「それはひどいなぁ」

「まったく、世の中には、信じられないような

人間がいるね」

「はい・・・・・・」

家が近づいて来た。―――もっと遠ければいいのに、

と私は思った。

「届けたの?」

「え?」

「いや、その傘の事。駅の人にでも」

「届けてません。―――どうせ、古い傘なんです」

「そう」

と、その人はうなずいた。

「じゃあ・・・・・・きっと戻って来ないだろうな」

「はい」

家の前まで来ていた。―――私は足を止めた。

「どうかしたの?」

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