BLUE HEARTS
「………。」
どうやら願い通り、俺は保健室で目覚めたらしい。
奮発して「美女の添い寝」もサービスしてくれたらなんて、わがままだろうか。
固まった首の骨を慣らし、上履きに足を滑らせる。
まだ窓の外は明るい。
俺は鏡を見る。腫れた顔。鼻血の跡。間抜け面。
革張りのソファに腰深く座り、重いため息を捨てる。
その時、隣のベッドから人の気配を感じた。気配はやがて影となり、カーテンが開くと明確なものとなった。
逆立った茶髪、細い眉、鋭い眼光、小麦色に焼けた肌に圧縮された筋肉。
その男、豪(ごう)。
想定するに、鬼塚あきらの彼氏である。
「ふぁ…ぁ。ねみ」
大口開けて、あくびをこぼす豪。それは百獣の王による咆哮。
ぼうっと眺めていると、つい目が合ってしまった。
「…何見てんの」
「え、いや、別に」
「ふうん。お前さ、あきらによく運ばれてる奴だろ」
「え」
思わず聞き返してしまった。
「お前さ、あいつの何なの」
「何、って。ただの知り合いとか、そんなん」
「知り合いねえ。あきらはそうは思ってねえみたいだぜ」
再び俺は「え」と聞き返した。
知り合いじゃない。つまりそれは、それ以上?それ以下?
「でもな、あいつに手出したら承知しねえぞ」
「安心しろよ。それはない」
「ふん。それなら仲良くできそうだな。春海圭介」
「そりゃどうも」
右の拳が痛い。