BLUE HEARTS
深夜2時8分何秒。まるで電池が切れたおもちゃのように、姉はソファに寝てしまった。
テーブルや床に転がる空き缶の数々。
すらりと長い足を背もたれに掛ける様は、まるで品がない。
ベッドまで運ぶ事になる弟の苦労は、いつか報われるのだろうか。
いくらオリンピック選手と言えど、この時の重い溜め息を持ち上げる事はできまい。
「ちゃんと掴まれよ」
「んん…、お姫様だっこ」
「おいおい、何と勘違いしてんだよ」
文句を垂れながらも、従弟は姫を運んでやる。
ボロアパートの一室。四畳半。雑誌を足でどけ、ベッドに寝かす。携帯を充電器に繋げてやるのがちょっとした優しさ。
「おやすみ」を交換して、部屋から出る時に雑誌を一冊持っていく。
姉は今年の三月まで読者モデルをしてたんだ。これは半年前の物だけど、ほらここに写ってるだろ。
鼻が高いよ、ほんと。
片付けも済ませ、俺も自分の部屋に戻る。漫画が散らかる四畳。さすが姉弟ってね。
漫画を本棚に戻していると、門脇優花からメールが返ってきた。
たわいない内容さ。
「…明日、もし空いてたら、駅前に、新しくできた、お店に、行きま、せんか?」
ほらね。
たわいない。
「…明日、もし空いてたら、駅前に、新しくできた、お店に、行きま、せんか?」
ほら。たわい、ない。
たわい、ない、くない。
たわいなくない。
「え…っ」
これって、デートの誘い、だよな。