BLUE HEARTS
夕刻18時2分何秒。一通り用を済ませた頃、姉からメールが届いた。
『晩御飯は心配しないで』という内容だった。余計なお世話だっての。
「何もできないくせに」
「ん?」
「ううん、何でもない」
姉は前に、味噌を溶くと言って一パック(750g)を使い切った。魚をさばくと言えば包丁が欠け、卵を割れば皿が三枚割れる。
料理だけじゃない。掃除も。洗濯も。あらゆる家事が惨事のもと。トラブルの生産性なら、姉に敵う者はいまい。
風呂でも沸かしてみろ。金が湧くぞ。
「ねえ、どこか食べに行こうよ」
信号に差し掛かった時、下から覗くように門脇優花が言った。唇を結ぶとできるえくぼ。くすぐったい。
返事を待つ瞳は、艶やかに誘惑する。きゅっと摘ままれた心臓を、俺は咳払いでごまかした。
門脇優花と食事か。
焼肉。鍋。回転寿司。お好み焼き。しゃぶしゃぶ。ファミレス。
高級レストランだなんていつか言ってみたいよ。
でもさ。
「ごめん」
「え」
どうしてこういう時、頭の後ろを掻いてしまうんだろう。痒くないのに。
門脇優花の目を見るふりをして、鼻を見て話す。
申し訳ないふりをして、既に頭の片隅で献立を考えている。
嫌な奴だろ。だけど嫌いにならないで欲しい。
「帰らないと。うちの姉ちゃん頼りねえから」
「でも、あたし…───」
「───…ごめん」
ごめん。でもやっぱり帰らないと。