BLUE HEARTS
馬介(うますけ)。そう命名された俺は、小さな武将を乗せ歩く。
許された言葉は「ひひん」だけ。
それ以外を喋ろうものなら…───。
「ゔ…っ」
「ひひん、だろ。馬介(うますけ)」
「ひ、ひひん」
脇腹を蹴られる。
そうして辿り着いたダイニング。匂いの主は、クリームシチューか。
「圭介。早かったね」
「ただい…───うぐっ、ひ、ひん」
「あおいちゃん。圭介に遊んでもらいな」
「おう」
既にビールを三缶空け、ソファでくつろぐ姉。晩御飯は心配しないで、か。
俺が苦笑いを浮かべると、並びの良い歯を見せた。
台所には手際よく夕飯の支度を進める鬼塚あきらの姿。蹴られたでもなく胸が痛む。おかしい。
「馬介(うますけ)、芸やれ」
「ひ、ひひん…───ゔっ」
脇腹を蹴られる。
「喋れよ。何言ってるか分からねえ」
「…あおい、そっくりだな」
お姉さんに。
そうこうしてる間に、テーブルには何品も並んだ。テーブルを拭いたのはあおい。料理は色彩豊か。
さて、俺も晩御飯の支度をしよう。
「早く座れよ。一人分くらい余裕ある」
冷蔵庫の中を覗いていると、鬼塚あきらが声を掛けてきた。
テーブルには既に四人分の料理と、席が一つ空いている。
「良かったね、圭介」
「馬介(うますけ)、馳走じゃ」
「あ、ああ。いただくよ」
毒が盛られてるんじゃないかなんて、考え過ぎだろうか。
でもまあ、だとしてもご馳走には変わりない。
いただきます。