BLUE HEARTS

姉を部屋に寝かし、台所に戻ると鬼塚あきらが洗い物をしていた。

あおいも食器を運ぶお手伝い。

「どけ」と睨む目は、まぎれもなく鬼塚家のものだ。

「はい」とたじろぐ足は、春海家のものだろうか。

負けるな、俺。


「やるよ」


そう言って腕捲りをすると、鬼塚あきらは無言で洗った食器を渡してきた。

食器についた水が「ふけ」という文字に見える。


「………。」

「………。」

「………。」

「………。」


沈黙が酸素を奪う。息苦しい。

よし。


「悪かったな。姉貴に頼まれたんだろ」

「別に」

「晩御飯は心配しないでだなんてさ、変だと思ったんだけど」

「………。」


無念。

こんな時、饒舌な天使と悪魔はなにをしているんだ。

「ちょいとバカンスにね」

あ、そう。


「………。」

「で、何で帰ってきたんだよ。玲(れい)ちゃんが言ってたぞ。女と会ってるって」

「あ、いや、まあ」


お喋りな。


「…姉貴が困ると、俺も困るから」

「ああん?」

「そんだけ苦労かけてるから。幸せになって貰わなきゃ。世界一。宇宙一」

「だから帰ってきたのか」


かっこつけすぎかな。

洗い物を済ませると、鬼塚姉妹は帰り支度を始めた。

すると眠気眼のあおいが、俺の服を握る。


「馬介(うますけ)、おんぶ」

「こら、あおい」

「いいよ。家まで送る」


ちっ、という舌打ちが聞こえた。けど断りはしないようだ。


「ほら、あおい…───ゔっ」

「ひひんだろ」

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