BLUE HEARTS
┗third lesson
月曜の空はあいにくの曇り。重厚な雲が郡をなし、我が物顔で大行進。
あまりの迫力に、あの太陽とやらも目を逸らしているようだ。
俺は睨んでやったがね。
そんな優越感に浸りながら、右手のあんパンをかじる。牛乳を飲む。ペンを握る。
双眼鏡の先にあるロマンを、今日もノートに書き写す。
相田みどり。水色。
そんな事をしていると、錆びた鉄扉がぎいっと開いた。
この神聖な地にちょこんと足を置いたのは、門脇優花。
わざと視線を交えないようにしながら足早に駆け寄る門脇優花に、俺も気づかない振りをする。
「やっぱりここにいた」
「おお、なんだ門脇か」
だなんてわざとらしいかな。
前と同じように隣に腰を下ろすと、髪を掻き分ける門脇優花。
あ、いい匂い。
「どうしたの」
「ううん、またここにいるんだろうなと思って。来ちゃった」
「そっか」
「うん」
双眼鏡は相変わらず覗きを止めないが、俺の脳はすっかりおあずけ。
誰か脳を覗いてみてくれないか。きっと下心で一杯だ。
「あのね、聞いてもいい?」
「ああ」
「春海君ってさ、あきらちゃんの事、どう思ってるの?」
鬼塚あきら…────。
その名前に、どきっと胸が痛んだ。
「どうって」
「…好き、とか」
「おい冗談だろ。あいつはホトトギスが鳴かなかったら、飢えるまで待って、喉突いて搾りだして、最後には剥製にするような奴だよ」
「あきらちゃんも、春海君の事なんとも思ってないのかな」
また、胸が痛む。
「ないない。あいつにとって俺はただの実験体だよ。新しい技のね」
「…あたしは好き」
「俺だって嫌いな訳じゃないよ。ただもう少し可愛げがあればな…───」
「───…ううん、違う。違うよ。あのね、あたしね、春海君が好き。好きだよ?春海君」