BLUE HEARTS
脳みそにそっと置かれた辞書。開いてみれば卑猥な言葉ばかりで、とてもじゃないが書店に並んでいいような品物じゃない。
ようやく見つけたその言葉。不安げに書かれた「好き」という言葉。
指でなぞりながら、口にする。
そうだ。また忘れてしまわないように付箋(ふせん)を貼っておこう。
これでよし。
「きゅ、急に…───」
「───…急なんかじゃないよ。私はずっと春海君の事が…───」
「───…あ、いや、あい、や、ちょ、ちょっと待った、待って」
そこのあんた。ここいらに不審な野郎を見なかったかい。挙動、って名らしいんだ。
見掛けたら指でも差して教えてくれ。おい俺に指差したの誰だ。出てこい。
「こ、これ見て。双眼鏡。あそこの教室覗いてたんだ今。覗き中なんだよ。こ、こういうのって雰囲気が大事だろ。いまは…───」
「───…駄目、だよね。おかしいよね急に。そうだよね。はは、ごめん」
「………。」
俯く門脇優花に、俺の胸はぎゅっと搾られる。
呆れ顔の悪魔は、俺の耳に肘を置きながら鉛のように重いため息を捨てた。
「馬鹿野郎が。ありがてえ話だぜ。てめえの事を好きだなんてよ。前に言ったな。分相応に生きろってよ。何を高望みしてんだか。結局てめえは身の丈を知らねえ。だからいつまでも…───」
うるせえ。
心配そうに天使が肩にちょこんと座る。
「違う。あなたは正直なだけ。鈍感なだけ。この子が目の前にいても、頭には違う子がいる。そうでしょ?」
「ははっ、鬼塚あきらってか」
「…ちっ」
悪いかよ。