BLUE HEARTS
「忘れて」と言った門脇優花の顔が、白雲のキャンバスに描かれる。
雲の動きにあわせてその表情は変化し、やがてほかの雲と重なって、その顔は綿毛のように散った。
答えが見つからない。頭の中をがちゃがちゃとかき混ぜられてる気分だ。おもちゃ箱みたいにね。
仰向けになりながら、ひたすらにうなだれる。
「…くそ」
するとどこかから、嗅ぎ慣れた甘い香りが鼻下をかすめる。小さな足音。細い影。
俺は仰向けのまま、芋虫のように地を這った。
勘が働く。女だと。そう思った矢先、突如視界が黒に覆われてしまう。
鼻先から広がる痛み。どうやら俺は顔を踏まれているらしい。
唯一の救いは、靴を脱いでるって事。ソックスから伝わる熱が温かい。
次第に視界が戻ると、やはりそこには鬼塚あきらがいた。
雌猿達の姿はなく、珍しく一人だ。
「普通、踏む…?」
「うるせえ」
威圧的な目、通った鼻、むっと結んだ唇、繊維の細かい肌、素材を生かしたメイク。
髪型はふわっと質感を軽くした柔らかい毛束のアップ。チョコ色。
紺のポロシャツに学校指定のチェックのスカート。耳にはハートのイヤリング。手首にはあおいお手製のビーズのブレスレット。
今日の下着の色は…───いや、やめておこう。
「お前、優花と何かあったろ。さっき廊下ですれ違った」
「…ああ、そうなんだ」
「何があった」
「そんな怖い顔するなよ。俺だって門脇には悪い事したって…───」
「───…悪い事?優花のあんな顔、初めて見た」
「…泣いてた?」
「笑ってたよ。不気味なくらいにな」