BLUE HEARTS
笑ってた…───?
クエスチョンマークが頭上を浮遊する。それも三つも。
長い睫(まつ)毛の隙間から、こちらを睨む鬼の目とぶつかる。
果肉のように潤った唇はよりきつく結ばれ、鬼塚あきらの周りだけ、空間が歪んでいる。
一歩後退り。いや待てよ。「笑ってた」んだろ。だったら何で睨むんだ。一歩前へ。
「言えよ」
「はい」
どこまでも情けない男。早打ち0.3秒のガンマンですら敵わぬ即答。
俺は包み隠さず話した。
「それで、お前はなんて答えた」
「断った、…つもり」
「…そうか」
またベッドの上に寝かされる。頭突きか。上段蹴りか。左拳か。
そう考えていると、意外にも鬼塚あきらは無言のまま去ってゆく。
華奢な足がこつこつと。耳から垂れたハートがはしゃいでいる。
だがほっと緊張をほどいた時、鬼塚あきらは足を止め、振り返った。そして足首を軽く回すと、歩幅を調整しながらこちらに走り始めた。
前方1.5メートル。左足をバネにし、高く飛躍する。
その刹那、彼女の右ひざが俺のあごを貫いた。
フライングニー。
「ぐぅ…っ…ふ」
機能が削がれ、崩れ落ちる体。
意識を手放す直前、俺は思いもよらぬ言葉を耳にした。
「…良かった」
なんだよ。
良かったって。