BLUE HEARTS
目にうつるのは、白い天井、白いカーテン、白いベッド。どれも見慣れた光景だ。
上半身を起こすと、氷水がはいったビニール袋があごから落ちる。
鬼塚あきらか。
硬直した首を回し、踵(かかと)が潰れた上履きに足を滑らせる。
遮光カーテンを開き、壁掛け時計を見ると、時刻は午後三時十二分。
俺はビニール革の長椅子に腰を下ろすと、今度は首を冷やした。
「お目覚め?春海君」
すると保健室の宮野さんが声を掛けてきた。
「いつもご迷惑をおかけしてます」
「ふふ、大変ね。こうも頻繁だとあの子も手際よくなってきたわ」
はは、と笑ってみる。
いつも思う事だけど、保健室ってのは音が少ない。
耳を澄ませてみても、聞こえてくるのは秒針が動く音と、空調の音だけ。
夏になれば、そこに蝉(せみ)の鳴き声が加わる。
退屈な場所。でも落ち着く場所。好きな場所。
「ふぁ…ぁ」
ふと携帯を開いてみると、メールが一件届いていた。
差出人は鬼塚あきら。
「嫌な、予感が、する。気を、つけろ」
嫌な予感がする。気をつけろ…───?
大袈裟に首を傾げてみたものの、心当たりはある。
門脇優花。
罪悪感。違和感。そこから奏でる不協和音。
「笑ってた」という真意。
魚の小骨のように、引っ掛かりだけが残っている。
その矢先、新しくメールが一件届いた。
差出人は門脇優花。
「良かった、ら、一緒に、帰ら、ない…───?」
良かったら一緒に帰らない?
不協和音が鳴り響く。