BLUE HEARTS
昇降口まで行くと、正門で待つ門脇優花の姿が見えた。
俯いたり前髪を直したり、細い指先できゅっと鞄を握りながら、踵(かかと)を浮かしてみたり。
そんな愛らしい仕草をしてみせる彼女に、俺は臆病になっている。
固唾を飲み、小走りで正門へと向かう。
「お待たせ」
「ううん、嬉しい」
「じゃあ帰ろうか」
すっかり桜は掃けてしまい、アスファルトの一本道が続いている。
こつ、こつ、こつ、こつ。心拍数に合わせて足音が弾む。
「ごめんな」
突如、唇から漏れた謝罪。
「えっ」と目を丸くする門脇優花。
俺は視線をはずさないように、拳をぎゅっと握る。
小さく深呼吸。
「あ、いや、さっきは曖昧な返事だったから。だから、ごめん、俺やっぱり…───」
「───…あきらちゃん」
思わず「え」と聞き返す。
「あきらちゃんでしょ。どうして。いつも怪我させられて。悪い噂だって聞くよ。なんであきらちゃんなの?」
「…関係ないよ、あいつは」
「嘘だよ。春海君はあきらちゃんしか見てないもん。なんであんな…───」
「───…知ってる?あいつ、妹の為に慣れない裁縫で手提げ袋を作ってやったり、ボタン着けてやったりしてさ。何個もバイト掛け持ちして、家計の負担減らしたりしてんだ」
「…知らないもん。そんな事」
「痛みには耐えてやる。悪い噂だって聞き流してやる。でも、俺のせいであいつが悪く言われるのは我慢できないよ」
一つ分かった事がある。
門脇優花は俺の事が好きなのではなく、鬼塚あきらが嫌いなのだと。
「…もう、知らない」
次の日から、鬼塚あきらの周りが変わり始めた。