BLUE HEARTS
雲が掃けた火曜日。踵(かかと)が潰れた上履きを滑らせる。
今朝の玉子焼きがうまくできたもんで、自然と足取りも軽い。単純だろ。
耳に流れるのは軽妙な英単語の数々。何一つ聞き取れやしないが、ご機嫌なのは分かる。
教室は香水達の披露宴。私を見て。いや私よってね。
そんなランウェイを横切り席に着く。すると異変に気づく。
窓際の猿山に、雌猿が一匹もいないじゃないか。
大将を残して…───。
俺は思わず、猿山の頂上に登っていた。
「どういう訳、これ」
「…知らね」
頬杖を着き、窓の外を眺める鬼塚あきら。
力ない返事は、複雑な感情がこもって聞こえた。
「でも…───」
「───…悪い。ほんと知らねえんだ」
「………」
その時、教室の扉が開く。
「おはよう」
誰に言ったのか。はたまた誰にも言ってないのか。
けれども門脇優花の声に、雌猿達が一瞬にして硬直した。
「おはよ、春海君」
「…ああ、おはよう」
「おはよ、あきらちゃん」
「…おう」
にっと口端を伸ばした後、門脇優花は静かに席へと戻った。
細胞の一つ一つが泡立ち、神経が一点に研ぎ澄まされる。
「もう知らない」
あの時の門脇優花の言葉が、俺の胸を騒がす。
「春海」
「ん?」
「…いや、何でもない」
黙れ、胸。