BLUE HEARTS
屋上にいる間、俺は狭い頭蓋骨に三つ四つ脳味噌が詰まった感覚になる。
あらゆる情報が駆け巡り、整理し、分析する。
そんな感覚。
いまの俺は双眼鏡もペンもメモ帳も持たず、目はただ景色を映しているだけ。
だから隣に誰かきていようと気づかない。
「ひっ…───!」
すっとんきょうな声を上げて、腰を抜かす。
そこには鬼塚あきらがいた。
靡(なび)く髪を掻きあげ、どこか遠くを見ている。
その距離、二尺八寸。充分に切っ先(※蹴り)が届く距離だ。
血の気が引いてゆく。
「振られた」
刀(※足)が…───?
一瞬身構えたが、鬼塚あきらの顔を見て力が抜けた。
その表情は、瞼が震え、下唇を噛み締めている。
手は握り拳。
「振られたって」
「彼氏に。いや、もう彼氏じゃないか」
振られた。
その言葉は脳内でクエスチョンマークに変換される。
問1.何故?
「ごめん、て言われたよ。畜生。何がだっての」
「鬼塚」
「周りの奴等もああだしよ。春海、お前は変わってくれるなよ」
そう言って、鬼塚あきらは校舎へと消えた。
俺は無言のまま、ただそれを目で追っていた。
「…変わらねえよ」