BLUE HEARTS
白と言えば、この満天に広がる白い景色は一体…───。
嗅ぎ慣れた薬品の臭い。一秒を刻む音。ああ、ここは保健室か。
俺ははっと息を飲み、慌てて三種の神器を探す。望遠鏡。ペン。メモ帳。無事だ。
「そうだ。鬼塚あきら、白、と」
馬鹿で結構。
上履きに足を滑らせ、俺はカーテンでくくられた空間を出る。
途端に襲う陽射し。目を細め、邪険にする。
ピーナッツ型のテーブルに置かれた一枚の鏡。そこに写る俺はあごにシップを貼られ、とても間抜けに見えた。
「…くそ」
鬼塚あきら。
目測、身長154。体重42。
B80。
W57。
H82。
失神させられた回数。
上段蹴り159回。
掌底62回。
肘振り上げ8回。
頭突き4回。
述べ233回。
だっせえ。
鏡に映る男がそう言う。
髪を染め、耳に穴を開け、胸元をはだけさせたその男。つまり俺。
右の拳が泣いている。
「よう、やっと起きたかよ」
ぎくり。
たんぱくな擬音だろ。
下唇をきゅっと絞めて、俺は瞳を目尻に転がす。
どうして…───。
「お、鬼塚あきら」
「はっ、情けねえ面」
革張りの椅子で足を組む鬼塚あきら。眉間にしわを寄せ、ぷるんとした唇を尖らせている。
「ず、ずっと…───」
「…ああん?」
「いたの?」そう出掛けた言葉は、その睨みに畏縮して奥へと消えた。
ああ、やっぱり怖い。