BLUE HEARTS
顔を洗う。水が滴る良い男。とは言い難いほど、俺の目は感情をあらわにしていた。
すると左右非対称の俺は、不適に口角を上げ、饒舌に肩を揺らし始めるではないか。
「よお、俺よ。どうしたい。さえねえ面して。あれか、女か。女だな。あれは諦めた方がいい。野郎に惚れてやがる」
悪魔の俺か。
「不釣り合いなんだよ。てめえはせいぜい分相応の女を選べ。くくく、分相応のな」
「………。」
言われたい放題だな。
だけど反論する言葉もない。
続けて左右非対称の俺は口角を下げると、眉をへの字に曲げて心配そうに口を開いた。
どうやら天使の俺らしい。
「恋に分相応なんてない。好きは好き。平等な感情でしょうが」
悪魔に変わる。
「違うね。好きだろうが、そいつが一方通行なら空っぽだ。虚しいだけじゃねえか。片想いでも幸せってのは、臆病者の戯言だ。幸せな訳がねえ。なら分相応に生きねい。それが幸せさ」
うるせえな。
大体、俺が誰を好きだっての。
「幸せは人様々。他人が誇示するもんじゃない」
「おいおい、俺は、俺だぜ」
次の瞬間、俺は右の拳で鏡を割っていた。拳骨から蜘蛛の巣状に広がる亀裂。
うるせえ。うるせえんだよ。
「はあ…はあ…」
俺が、俺の知らない会話をしていた。ああも軽快に。
不愉快なほど軽快に。
そこで気づく。
「…ああん?」
俺は悪魔と天使、どっちの俺を殴ったんだ。