BLUE HEARTS

火照る拳骨をのぞく。脳内を駆け巡る天悪の会話。恋。片想い。分相応。なんだそら。

俺の目はただ前を見る。俺の足はただ下を踏む。俺の手はただ居所が悪い。

難しい奴だろ、俺。でも普段からこうな訳じゃないんだ。

見てくれ。あそこに女子高生がいるだろ。髪がすっと伸びて。細い足の。鞄にはちみつ好きの熊のキーホルダーを着けた子さ。

この道は交通整理が滞ってなくてね。でこぼこだらけ。ふとした拍子にあの子がつまずいてパンツが見えないかな、とか。そんな事ばかり考えてる。


「いてっ」


だから電柱にもぶつかる。

悶える俺。すると後ろから「くすり」と上品な声が聞こえた。

痛む鼻っ面を押さえ、首だけを後ろに向ける。そこにいたのは、同じクラスの門脇優花だった。


「み、見てた?」

「うん。見てた」


桃色の唇が引き伸ばされ、くすぐったい笑みを浮かべる門脇。

華奢な体の線。白い肌。よく言う「守りたくなる子」ってやつだ。

門脇は小さな足でとことこ歩み寄り、いつの間にか俺の横にいた。


「お前、家こっちなの」

「うーん。どうだろ。でもいいの」


いいの、って何が。

そう尋ねようとした言葉は、屈託のない笑顔に負けて飲み込んだ。

それからも俺と門脇は隣同士で歩き、何てことない話をした。

地元の話や、家族の話。友達の馬鹿げた話とかね。あ、友達いるのって顔したあんた。

今度紹介するよ。


「じゃあ、俺ん家そこだから」

「まだ話したかったな」

「え?」

「あ、ううん。何でもない」


恥じらいだ。

経験の差だよな。迂闊にもこれだけで俺は「ひょっとして」と思ってしまう。大間抜け。

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