BLUE HEARTS
悪い子ではない。それがどんどん自分に都合の良い解釈へ変換されてゆく。
しまいには門脇優花は俺が好きだなんてね。俺は救いようのない馬鹿さ。
日課の間、拳をつき出す度に顔が浮かぶ門脇。手を後ろで組み、周囲に振る舞う上品な笑み。緩く結んだ唇と、熱をこもらせた頬。俺は言う。かわいいねと。
それとごくまれに、ほんと五十回に一回くらいの頻度で頭をよぎる鬼塚あきら。誰かに蹴りを食らわせ、いたずらな笑みを作る。長い睫毛の隙間に埋め込まれた黒の宝石。そっと触れなければ崩れてしまいそうな唇。彼女はいつだって俺に電撃を走らせる。そして俺は言う。ちくしょう、と。
なにが、ちくしょうだ。
「三百六十九、三百七十…」
回数を重ねる内に、ただ拳を突く単純作業にも「良い」「悪い」が生まれた。
悪い時は腕が波打つ。力の伝達が途切れたような感覚で、肘が痛む。
良い時はすぐ分かる。全身が突くという信号を受け取り、それが動作に変換される。その一突きは、容易に鉄板を貫くんじゃないかって錯覚をおこす程さ。
だがこれが難しい。
意識すると遠ざかり、無心の一瞬におこる現象。その現象の際、決まって俺の拳の先には奴がいた。
豪。
鬼塚あきらの彼氏。との噂。
なんで奴が脳裏によぎるのか。それはきっと、奴が嫌いだから。
なんで奴が嫌いなのか。それはきっと、奴が…───。
奴が、うらやましいんだ。嫉妬ってやつだと思う。
何に嫉妬しているかだって?知らないよ。教えて欲しいくらいさ。