君のためにできること
正気に戻った時には僕は渋谷のあのクラブの路地裏に塞ぎこんでいた。

僕は、君を甚振った後、クスリを得るため家を飛び出し、クラブに向かったんだ。
金もないのに…バイヤーに敵意を剥き出しにして、激しく求めた。その結果である。

「金は?」

初めの時と違い、かなり上から目線の口調で問いただすバイヤー。
財布からありったけの千円札5枚をだしてカウンターに置いた。

「足りないね…」

「そんな…前は3千だったろ…売ってくれ!」

「だったら金用意しろよ!サービスで5万にしてやっから」

ほんとうはわかっていた。薬物とはこういうものだとわかっていたんだ。でもあの時の僕はバイヤーに縋るしかなかった。

「お願いだ…もう我慢の限界なんだ…金なら後で用意する…いや、明日には、明日には用意するから…だからお願いだ…クスリを…」

僕はバイヤーの襟を掴み縋るように頼んだ。

「ダメだな…お前目立つんだよ、ちょっとこい…」

そういうとバイヤーは腕ずくで僕を奥の裏口まで引きずった。

「そっちがその気ならやってやる!」

僕はバイヤーに睨みを利かして闇雲に向かって行った。
しかし衰弱しきっていた僕の攻撃はまるで利かず、返り討ちにされてしまった。
昏睡した僕はそのまま裏口のゴミ捨て場に捨てられた。
僕にお似合いの場所。顔中は黒く固まった血が覆い、体中は痣だらけ、蒼く変色していた。生臭く感じるはずの生ゴミの入った袋が居心地がいいベッドに感じてこのままここで野たれ死んでもかまわないとさえ思った。

「…金だ……」

僕はそう呟くとふらふらになりながらも立ち上がり、激しく求めた。金が有ればクスリが手に入ると…
僕は、君がいない事を確認してから部屋に戻り武装した。このやせ細った躰と腕中の注射針の痕を隠すために、細身のスラックス、細身のシャツに袖を通した。そしてその足で新宿の繁華街を目指した。
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