君のためにできること
そして、迎えたライブ当日。

僕は人生で初めて大勢の人の前で自分が奏でるベースを聴かせるときがやってきたのだ。

前日、緊張して全然寝つけず、何度も練習していた僕。
彼女にはそのことがバレバレであった。


「岳、全然寝てないっしょ?顔に描いてあるよ。」


「う…うるさいな。初めてなんだよ。やっぱ緊張しちゃうよ。」


「まぁーしょうがないか…でも岳にも感じてほしいけどね。ステージで演奏する楽しさと爽快感。うまくいけばほんと気持ちいいから。」


笑顔でそう言う彼女はやぱり輝いていた。


「そう感じられるように、頑張るよ。」


僕はその期待にちゃんと答えたかったが、今言える精一杯の言葉を’頑張る’という陳腐な言葉でしか表わせることしかできなかった。

しかしそんな僕は彼女に黙ってあることをしようとしていた。
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