君のためにできること
「今、付き合っている彼と上手く行ってなくてね…それでピアノのコンクールがあって。音大に通ってる私にとってとても名誉あるコンクールなの。」
今付き合っていると聞いて僕の心が少し反応したのが自分でもわかった。
「彼は同じ音大に通うひとつ上の先輩なんだけど、彼もコンクール上手く行ってなくて…お互いを責め合ってケンカしちゃったの…」
僕は、想いを振り切って君に言う。
「そうだったんだ。だから浮かない顔してたんだね。今、彼とは頻繁に会ったりしてるの?」
「うん…学校が同じだし、彼はヴァイオリンを専攻してるけど、やっぱり私のことが気になるみたいで会いにくるの。でもケンカばかり…」
「少し…コンクールが終わるくらいまで距離を置いた方がいいんじゃないかな?」
「そうよね…私もそのほうがいいって思ってるわ。」
「とりあえず、今日は僕が付き合うから…一緒に飲んで楽しく過ごそうよ。グラス空だね。同じやつでいい?」
僕は、グラスを二つ持ってバーカウンターの方へ行った。
あの時の僕は、友達として君と彼が上手くよりを戻すことを願っていた。
そう…あの時の僕は…
それから君は強くもないお酒を飲んだね。チェリーブロッサム、君にぴったりなお酒だった。ほんのり桜色であの時の君を思い返す。
僕もいつも以上にお酒を飲んで上機嫌で僕の身の上話をした。その時に初めて君に彼女のことも話したね。君は彼女のことをちょっと軽蔑していたようにも見えたが、自分の気持ちに素直なのが羨ましいと言っていたね。