君のためにできること

音楽大学では毎年卒業前に卒業生に向けてのコンサートを取り行っている。

僕と恭介が観に行くことになったコンサートもこれにあたる。このコンサートではカーテンコールの時に演奏者に対して花束を贈呈する仕来りのようなものがある。

僕と恭介はその仕来りにならい、各々で花束を贈呈しようと考えていた。萌香、僕はあの花束を君にあげるプレゼントとして２番目に真剣に考えたよ。もちろんこの先君に贈るどのプレゼントも真剣に考えてはいたけど、あの花束は特別だったんだ。
そして、もちろん一番は…

「恭介…朱里ちゃんに送る花束…バラかよ…」

「…んだよ。なんか文句あっか？」

「ないけど…バラはどうなのかなって思うぞ。」

「なんでぇー？俺の朱里に対する想いが一番伝わりやすいと思ってこれにしたんだ。」

恭介は、小奇麗にラッピングしてある真っ赤なバラの花束を僕の前に差し出して言った。

「それはいいと思うけど、朱里ちゃんたちは一応サブって感じなんじゃないの？メインは卒業生なんだぜ？そんな目立っていいのかな？」

「なに、岳そんなん気にしてんのか？そんなんじゃ萌香ちゃんゲットできないぜ。」

「ば、ばかやろー、彼女には男がいんだろ。」

僕は明らかに動揺を見せたが、その時の気持ちはまだ、揺らぐ程度のものだったから僕は、からかうように言ってくる恭介に本気で否定した。

君たちの演奏は素晴らしかった。クラシックの音楽は全くの無知ではあるが、結局のところ音楽の本質は読んで字の如く、音を楽しむものだ。その感覚で楽しめたのだから素晴らしかったことは間違いない。

そして、そのオーケストラでヴァイオリンを担当していた彼。君から話しを聞いていたが、そんな嫉妬深そうな感じもしない、むしろとても淡泊そうで、端正な顔立ちで男らしさとはまた違った魅力がある男だった。
そしてこの時、彼は僕に嫉妬心を持ってしまったんだ。今思い返せば軽率な行為だったのかもしれない。

カーテンコールの時、だいたいが卒業生宛てに贈呈される花束、それに混ざり僕たちは君と朱里に花束を贈呈した。