君のためにできること
萌香、君は憶えているかな。
その帰り道で、僕が君を送ることになったとき、お酒の力で君はちょっと大胆になっていた。君の問い掛けに僕はあたふたしてしまったんだよ。でもあの時の君…本当は必至に溢れ出てきそうになる涙をこらえていたんだよね。
「岳クン…」
頬をほんのり赤く染めた君は、僕を見つめながら呼んだ。
「ん?」
僕は、その瞳に吸い込まれそうになりながらも辛うじて反応することができた。
「岳クンは…私のことが好き?」
「えっ…」
僕は心に矢が突き刺さるくらいに驚いたが、ゆっくりと首を縦に振った。
「私とキスがしたい…セックスがしたい?」
僕は、またゆっくりと首を縦に振る。ただセックスという言葉から、その脳裏にあの時の光景が浮かんできた。君は、ふざけているようにも見えれば真剣に答えを求めているようにも捉えられるような瞳で僕を見つめてくる。
「でも私には…恋人がいる…」
そういうと君は笑顔なのにその瞳には涙が溢れていた。それに気がついた君は、僕に背を向けて静かに肩を震わしていた。
「…岳クン…」
消えそうな声で僕の名を君は呼んだ。
「…岳クン…しようか…」
「えっ…」
今にも消えそうな声で君は僕が驚くようなことを呟いた。
「…続き…しようか…」
僕にはすぐに続きと言う言葉が理解できずにいた。
「続き…」
君は目の前にあるラブホテルに目線を合わせた。その行動に僕は続きということがあの時の続きと言うことだと理解した。