君のためにできること
僕は、君を抱きたい衝動に駆られながらも、君の精一杯の誘いを断るつもりでいた。
「やっぱり彼と何かあったんだね。話し聞くから…今日はもう帰ろう。」
僕は、君の手をそっと掴むと帰ろうと促した。君はその手を振りほどいて、僕をその濡れた瞳で見つめてきた。
「お願い…」
それが君の精一杯の哀願だった。ただ僕には抜群の効果を発揮していた。そんな僕は君を抱きしめてしまったんだ。今にも崩れてしまいそうだったその躰を留めておきたかった。
もしそれ以上のことを君に求めてしまったら、ダメな気がして、そう言うことが今の僕にできる精一杯のことだった。
あの時…何も考えずに君を抱いていたらどうなったかな…それでも君は後悔しなかったのかな?
肩を震わせて堪えていた君はいつしか子どものように泣きじゃくっていた。
「大丈夫…大丈夫…」
僕はそう言いながら、君の背中をさすった。その時僕は、不謹慎にも君に同じようにされたことを思い返していた。しかし、なんだか深いところで繋がれたみたいで僕は少し心地が良かったんだ。
落ちつきを取り戻した君は僕から離れて謝る。
「ごめんなさい…そうだよね…」
「いいんだ…とても辛いことがあったんでしょ。今日は疲れていると思うし、うちに帰ってゆっくり休むといい。家まで送るよ。」
「岳クン…ありがとう。」
涙が引いた君は清々しい笑顔でそう答えた。