君のためにできること
僕と彼女は、二人で再びドラッグを打ち、
世界一哀れで惨めなセックスをした。

もう僕には快感を得ることすらできずに、ただひたすらに腰を振り続けていた。

「…んぁ…ダメェ…だ…」

彼女はもはやセックスすらも楽しめないでいた。
僕よりもはるかに大量に服用していたのであろう。彼女は僕とのセックス中に幻聴と幻覚
を見始めていた。

「…あ…んぁ…ど、どうし…て…あ…し…はじ…―――もっ…はば…―――」

僕は、既に理解していた。彼女がもうメロディーなんてものを思い描ける状態ではないということを…
僕が腰を振るのを止めたとたんに、彼女は僕を突き飛ばし、立ちあがった。そしてふらつく足で、窓から見える満月を目指してベランダの方へ歩きだしたんだ。
僕は、起き上がることさえも出来ず、ただただ彼女を傍観し続けていた。

「あ…し…じ…ゆう…を…」

“あたしに自由を”
そう僕には聞こえた。

不思議だった。あれは僕がみた幻覚だったのだろうけど、その時の彼女の背中には翼が生えていたように見えたんだ。しかしその翼は天使のような純白で美しい天使の翼から次第に黒々とた斑点が浮き出してきていた。終いにはその斑点は翼全体を漆黒で覆っていった…そう…まるで神(シュ)に背き、墜逝く堕天使の如く…

僕はその彼女の翼と天を仰ぎ月までにも救いを求めるようにあげた手をじっと見つめていたが次の瞬間それらが視界から消えて見えなくなってしまったんだ。

彼女はベランダから身を乗り出してそのまま転落した。

僕はしばらく呆然とその場で立ち尽くしていた。僕には本当に彼女が飛んでいってしまったようにみえたんだ。
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