君のためにできること
羞恥心と満足感。この二つの感情が僕を浸食していく。

「今となっては、このクスリがないと生きていけないんだ。躰の傷が痛むんだ。頭も割れるように痛い。それならまだいい…ときおり頭の中でハエが暴れ回るんだ。叩いても、叩いても一向におとなしくならない…どうしていいかわからない…このまま死んでもいいとも思っているのにその勇気すらない…できれば……ころ――」

君は僕が言い終わる前に手に持っている注射針を叩き弾き、僕を強く、強く抱きしめてくれた。


“殺して欲しい”


僕は残る自意識でこの言葉を君に告げることを必死に抑えた。

「私じゃダメなの?貴方の光になれない?」

僕を強く抱きしめながら、彼女は耳元でそう呟いた。


――光――


その言葉は、包帯だった彼女を失った僕にとってはまさに特効薬だったのかもしれない。暗闇に怯えていた僕をその暗闇すら覆い隠すほどの光で君は包んでくれた。

「ひ…か……り…」

「そう…私が…私なら貴方の光になれるわ。」

「…生きたい…こんな…こんな…僕でさえも生きることは許されるの…」

僕は涙しながらそう君に訴えた。

「生きることに誰の許可も必要ないわ…大丈夫…私が包んであげる…護ってあげる…」

そう言うと君は、胸に縋り寄って涙している僕を優しく起こし、そっと口付けした。
これが君との初めてのキス。できれば君との初キスはもっとロマンチックにしたかったのが僕の願いだった。唇と唇が軽く触れ合う程度のキス。しかしそのキスは僕の心に深く深く刻まれた。

僕はあの時に心に誓ったんだ―――
残る自意識の中で確かに感じた君に対するあの感情を…
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