鋭い抱擁
彩
「裏切り者。」
5月は颯爽と過ぎ去った。というのも、陽と出会ったからだ。
初めて会った日から、毎日一緒に食堂で昼ご飯を食べるのが私達の日課になった。
たまにあの公園に行って柔らかい空気を共有することもある。
変な仲だ。友達でも恋人でもない、知り合い以上ではある。
初めて会った日からまだ1ヶ月ほどしか経たないのに、私の日常も感情も陽で埋め尽くされたのだ。
変わったことと言えば、季節が爽やかさを失ってきたこと。陽のパーマが少しとれたこと。
毎日一緒にトンカツ定食を頼んでいたけど、今日私がハンバーグ定食を頼んだこと。
「毎日トンカツも飽きる。」
陽はあーあ、とあからさまなため息をついた。
「頼んでしまったものは仕方ないから、ハンバーグ定食を食べればいいけど。」
陽は私をじっと見てから、ぷいっと目を反らした。
目は口ほどにものを言うの例は、陽だろう。
「けど?」
「真美がハンバーグ定食を食べている間は、一切口をきかない。」
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