鋭い抱擁


「裏切り者。」

5月は颯爽と過ぎ去った。というのも、陽と出会ったからだ。

初めて会った日から、毎日一緒に食堂で昼ご飯を食べるのが私達の日課になった。

たまにあの公園に行って柔らかい空気を共有することもある。

変な仲だ。友達でも恋人でもない、知り合い以上ではある。

初めて会った日からまだ1ヶ月ほどしか経たないのに、私の日常も感情も陽で埋め尽くされたのだ。

変わったことと言えば、季節が爽やかさを失ってきたこと。陽のパーマが少しとれたこと。

毎日一緒にトンカツ定食を頼んでいたけど、今日私がハンバーグ定食を頼んだこと。

「毎日トンカツも飽きる。」

陽はあーあ、とあからさまなため息をついた。

「頼んでしまったものは仕方ないから、ハンバーグ定食を食べればいいけど。」

陽は私をじっと見てから、ぷいっと目を反らした。

目は口ほどにものを言うの例は、陽だろう。

「けど?」

「真美がハンバーグ定食を食べている間は、一切口をきかない。」



< 16 / 30 >

この作品をシェア

pagetop