鋭い抱擁

大真面目にこんなことを言う人だから、本当に面白い。そっぽを向く陽の顔をのぞき込むと、睨まれた。

私達は席につき、いつものように食べ始める。


「トンカツ定食、おいしいな。不動の1位だ。」

トンカツを食べながら言う陽をじーっと見ると、チラッと私に目を向けてきた。

「そうだね、トンカツはおいしいよ。」

私は小さい子どもを慰めるように言った。本当は笑いたいところだけど。

「真美には言ってないよ。真美がハンバーグ定食を食べている間は口を聞かないって、言ったじゃないか。」

「ふうん。」


変わったこと、追加。陽が子どもっぽくなったこと。落ち着いてはいるけれど、発言や表情が。

毎日新しい発見ができるから、本当に楽しい。笑うこともずいぶん増えた。

なんだが嬉しい気持ちを抑えきれなくて、ハンバーグ定食を大口でバクバク食べた。

陽の小さく笑う声が聞こえた。


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