鋭い抱擁

陽は意味がわからないと言う風に大きな瞬きを何度も繰り返した。

今日はよく似合う黒ブチ眼鏡をかけてないから、目がよく見える。

大きく、魅力的な目。私はすぐにこの目に吸い込まれたんだ。

「玲美、さん…ごめんなさい。えっと俺はあなたを真美と勘違いして、ずっと振り回していたんだね。」

"ずっと振り回していたんだね"

私はピンと来なかった。

「振り回されたんじゃない。私が陽と居たかったから。」

あれ、今日は人生で一番大胆な日。

憂鬱な日々に帰るまでに、人生で一番大胆になれて、良かった。

「でも俺…玲美さんをずいぶん苦しめた…。」

さっきから私を"玲美さん"と呼ぶ陽が、遠く感じる。

ついこの間まで、一番近かったのに。近くが良かったのに。離したのは、私。

「ずっと嘘をついていて、ごめんなさい。確かに私は苦しんだけど、それ以上に楽しかった。でもずっとこのまま"真美"でいるわけにはいかないの。短い間だったけど、私には濃すぎる時間だった。こんなに…こんなに美しい時間を陽と過ごせるなんて…想定外だったよ…。」

私は驚いた。だって、涙が止まらない。ボロボロボロボロ、止まらない。

離れたくないから泣いてるのか、今までの日々が美しすぎたから泣いてるのか、わからなかった。



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