小悪魔れんあい
「先に部屋入ってて?」



叫心がそう言った瞬間、黒い影があたしの目の前を過った。



「叫心は?」



咄嗟にそう聞いてた。


だけど叫心は何一つ嫌そうな顔しないで、笑って


「飲み物を取りに行く」

そう言ってあたしの頭を撫でてくれた。



叫心はよく頭を撫でてくれる。
それは何故かあたしに、絶対の安心を与えてくれるの。


叫心が頭に軽く触れるだけでも安心するんだ。

だから、あたしはすぐに安心して先に叫心の部屋に入った。








部屋に入ってみたら、キレイに片付いてる部屋が何故か叫心っぽくて。


壁には何かのポスターとか何一つない。

あるのはベッドと…小さな机と、テレビくらい。




あたしは、机の上の物に一瞬手をかけたが目線はすぐにベッドへ向けた。





キレイに片付いているベッド。
…叫心ってキレイ好き?



そう思いながら、ベッドの上にボフッと座る。
すると、その空気にのって香る叫心の匂い。


いつも抱きついた時に香る匂いとはまた違う、ありのままの叫心の匂い。


叫心の…匂い…。



枕を手に取り、抱き締めてみる。



すると、よみがえるさっきのあの出来事。











…嘘ついた。
枕を抱き締め、叫心を近くに感じて…あのときのことを思い出して、泣きそうになる。




言わなきゃ、…早く言わなきゃ…。



そう思っていても、口はなかなか開いてはくれない。
ただ時間だけが過ぎていくんだ。






ねぇ、叫心。どうしたらいい…?



言っても嫌いにならない?
…別れようって言わない?




そう思うと怖くて言えなくなる。


だって…

叫心に嫌われたくないもん…。
叫心に嫌われたら、もうどうなるか分かんない。








あたしは溢れる涙を枕で隠し、しばらくそのまま枕を抱き締めていた。




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