小悪魔れんあい
「叫心っ…叫心っ!」

さっきから何回も麗奈が俺を呼ぶ。
だけど俺は怒りからか振り返ることもせず、歩みを止めることもせず、ただぎゅっと麗奈の手を握るだけ。

「叫…心っ!ごめんなさいっ…ごめんなさい…!」

俺を何回も呼ぶのと同時に、麗奈は何回も謝る。その声は震えていて、どうして謝るのか…と思いながらも、俺は麗奈の方に振り返れないでいる。


「きょ…しっ……ごめ…な…さっ…」


すると、俺を呼んでいた麗奈の声はだんだんと小さくなった。

そう、泣いてしまった。いや、正確に言うと、俺が泣かしてしまった。
麗奈の泣いてる声が聞こえてきたことで、俺の足はようやく立ち止まる。


「…叫心?」

「…んだよっ!…くそっ…」


俺は、もう怒りしか覚えていなかったので麗奈の肩を強く掴み、怒り任せに壁へと押し付けてしまう。麗奈は怯えているのか、涙を零しながらビクッと震える。


「きょ…しん?…」

「…今日が初めてじゃねぇだろ?」


朝、暁羅が俺に言いに来た時も意味深な言葉を言ってきた。絶対、昨日も何かあったはず。

「あいつに…暁羅に何かされたのだよっ!」

俺が問い詰めると、麗奈は気まずそうに顔を俯け、そして少しずつ言葉を紡いでいく。


「…叫心のお兄さんに会いに行った日に…抱き締められた…」

隠していた事実に、俺はもう息が…心臓が止まるかと思った。

抱きしめられていた…?何でそんなこと隠すんだよ…。何で、どうして…!

と、何回も心の中で麗奈に問いかける。


「…やっぱり…何でだよ?何で言ってくんねぇの?…」

「叫心に…嫌われたくなかったの…!」

と、涙を零して麗奈は泣き崩れる。俺はただ黙ってそれを見つめていることしか出来ない。


「…別れてもいい…。叫心があたしの事嫌になったんなら…振って…?だけど…、嫌わないで。お願い、嫌わないで…」


まるで、呪文のように呟く麗奈。だけど、どうしてそんなことを言うのかが俺にはわからない。

そもそも、この怒りは暁羅へと向けられているものであって、決して麗奈に対して怒っているわけではない。



やっぱり、麗奈は揺れているのか…?
暁羅と、ヨリを戻そうって少しでも思っているのか…?
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