小悪魔れんあい
「…んだよそれっ…」

ようやく出た俺の言葉は低く掠れた声。麗奈は泣いて、全く顔を挙げようとはしなかった。

「麗奈は俺にそんな選択肢しかくれねぇの…?…俺がずっと麗奈の彼氏じゃいれねぇの…?」

俺ってやっぱりダメな男なんだろうか。いつも、素直じゃないから…こんなことになってしまうのだろうか。

すると、麗奈は少しだけ驚いた表情で顔を挙げた。


「でも、叫心…怒って…あたしの顔も見たくないんじゃないの?…」

「なんで、麗奈に怒るの?」

「…暁羅に…あんな事されたから…」

さっきのことを思い出してか。また泣き始めた麗奈。
だけど、俺は決して麗奈に対して怒ってるわけじゃない。むしろ、暁羅のほうだ。

でも、麗奈は泣いている。
俺の目の前で。俺が自分に対して怒っているのだと、思っているのだろう。

…そんなこと、ありえないのに。
俺はただ泣き崩れる麗奈を、黙って見ていることはできずに。


「…麗奈っ…」

と小さく呟いて、麗奈のその綺麗で形の整った唇にそっと自分の唇を重ねた。

だけど、重なるだけじゃ終わることができない。
俺は麗奈の少しだけ開いた唇に、舌を割り込み優しく麗奈の舌を絡めとる。

俺のキスで、あんな暁羅のキスを忘れて欲しい。その一心で、麗奈にキスを続けた。


「ふっ…ぅ…」

俺は麗奈の頬を優しく手で覆いながら、キスを続ける。すると、麗奈も俺の手に自分の手を重ねてくれた。

「…麗奈、…俺、何も出来なくてごめん…」

キスが終わって、まだ唇が重なるか重ならないかの距離で俺は話す。


「…なんで叫心が謝るの…?」

「…俺、麗奈を手離したくねぇんだ。」

「…叫心…?」

「麗奈と…別れる…なんて考えたくもねぇんだ…!」

それは紛れもない俺の本心で、初めてちゃんとした言葉にした気がした。いつもなら、そんな相手にすがりつくようなダサい言葉だと思って、絶対言わなかった。

だけど、今だけは。
今だけは言わないと、麗奈が離れていってしまう…なんだかそんな気がしたんだ。


「ごめんな、麗奈。キツくしてごめん。俺、麗奈が大好きだ」


俺は、麗奈の身体を力強く抱きしめながら。
何回も何回も、耳元でそう囁いた。

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