小悪魔れんあい
真実とも別れて、俺はなかなか部活に行こうという気にはなれなかった。
女に頼らなければ勝てないサッカー部。
これほど辛いものはない。頼りたくない、けど頼らなければ全国に進めやしない。
俺なんかより、はるかに上手いのなんて昔から知っていたことなのに。
こうもショックを受けるとは、自分でもびっくりだ。
考え事をしながら、一人で廊下を歩いているときだった。
ガラっと、麗奈が教室から出てきた。
「あ、麗奈っ…」
「叫心!あれ、どうしたのっ?」
笑顔で俺に駆け寄ってくる麗奈。
その笑顔を見てると、キュウン…と心が癒される。
「あ、いや…さっきミーティングがあってさ」
「そうなの?で、また練習に戻るの?」
「うん」
「頑張ってね!」と笑う麗奈は、今の俺にとって特効薬で。俺は麻薬中毒みたいに麗奈に溺れてる。
何話そう?とか、そんなの考えてる暇なんてない。
ただ、麗奈と一緒にいて、一緒の空間で呼吸をして、少しでも落ち着いた時間を二人きりで過ごしたいんだ。
「じゃ、早く戻らないとね!」
「っ…」
バイバイと手を振ろうとした瞬間、俺は麗奈の手を無言で引きとめた。
麗奈はもちろん驚いた表情で俺を見つめる。そして、叫心?と一言付け加える。
「あの、さ」
「うん」
「情けない話なんだけど…さ」
「…叫心?」
はは、悔しいな。
泣きそうだ。泣きそうだけど、どうやら俺は麗奈にこんな情けない話を聞いてもらいたくてしょうがないみたいだ。
サッカーが大好きなくせに、女より下手な男ってどうなんだよ?
馬鹿らしくて、虚しすぎて、悔しすぎて。
笑えてくる。