小悪魔れんあい
翌日俺は、特に何も昨日と変わらずに学校へ登校した。
まだ学校に真実がきていないことに、少し安心してしまう。なんて俺は、恐がりなんだ。
自分がしてしまったことなのに。もうその事実はかえられないのに。
「きょーしんっ!」
後ろから、陽気な声で話しかけられた。
その声が真実の俺を呼ぶ声に一瞬似ていた気がして、俺はビクッと体をふるわせてしまった。
だけど、振り返った先にいたのは麗奈だった。
「叫心?」
「あ、麗奈…」
麗奈を見るとほっとした。
なんていうか、麗奈には何か特別な力でもあるのだろうか。目が合うだけで、癒される自分がいる。
と、そう思うのはきっと世界中で俺だけに違いない。
「おはよ!」
「おはよう!」
俺が笑顔で挨拶すると、麗奈は安心したように挨拶を返してくれた。
「麗奈、俺のクラスにあんまきたくなかったんじゃ…」
「え、どうして?」
「だって真実も一緒だから…」
とそこまで言ったところで思い出した。昨日の約束を。
真実の名前は口に出さないって麗奈と約束したばかりだというのに、俺はもう約束を破ってしまっている。
馬鹿すぎる。麗奈だって、すごく沈んだ表情になってしまったじゃないか。
「ごめ、俺っ…!」
咄嗟に謝ろうとすると、麗奈はううん、と笑って首を横に振った。
「いいの。あたしだって強くならなきゃ。叫心に頼ってばっかりじゃいられないよ」
「……麗奈…」
へへへと照れくさそうに笑う麗奈を見ていると、すごくすごく愛しい。
だけど。
こんな教室という公の場で外国人みたく堂々と抱きしめる勇気も出るはずもなく。俺は、麗奈に釣られてへへへと笑うことしか出来なかった。