小悪魔れんあい
"叫心の好きな人って…長塚さん…でしょ…?"
あたしの口から絶対に出したくない名前。
絶対に認めたくない名前。
その名前を体の奥深くから絞り出すように、あたしは言った。
「…は?!…おまっ…何…っ!!」
叫心はその名前が出た瞬間急に動揺し始めた。
顔を赤く染めて。
やっぱり好きだったんだね。
叫心のあんなカッコイイ顔を、赤く染められるのは長塚さんだけなんだ。
あたしはもう、無理なんだ。
ねぇ、叫心?
あたしの顔はどんな風になってるのかな?
不細工かな?情けないかな?
たかが恋愛。
たかが失恋なんかで、いちいち変わるあたしの表情。
おかしいかな?
…でもね。
あたしにとったら"たかが恋愛"なんかで終わらせれる程、簡単な気持ちでした恋じゃなかったんだよ。
本当に本当に好きだったの。
「…あたし、昨日見ちゃったんだぁ…」
「…え?」
「叫心と長塚さんが抱き合ってるところ…」
「…あ、あれは…その…」
必死に溢れる涙をこらえる。
泣くな。
まだ泣いちゃだめ。
叫心の前で、泣いたらダメだ。
今泣いたら、今まで我慢したのが台無しじゃんか。叫心も、またあたしにうんざりしちゃう。
せめて、もうこれ以上嫌われたくないから。ウザイと思われたくないから。
「…ごめんね。もう、邪魔しないから」
この気持ち、諦めるから。
あたしは叫心の返答を聞かないまま、逃げるようにして叫心の前から立ち去った。