小悪魔れんあい



「……こ…れは…?」




教室に入ってすぐ目に入ったもの。


"これだよ"なんて言われなくても気付く。



それは見るも無惨に傷付けられ、何かで彫られたあとのある机。


その彫った文章は、あいつを卑下する言葉。




「…んだよ…これ…!!」


「分かんない……?」


松本のその言葉に、俺は「は!?」と答える。





「嫌がらせだよ」



松本の言葉を聞いた瞬間、俺の思考回路は完全にストップ。


背筋が凍りついた。




「嫌がらせ…?」

「そうだよ。麗奈があんたを好きになってしばらくして…始まった…」

「マジかよ…!!…何で…あいつっ…」

「あたしも知らなかった」





そう言う松本は、どこか寂しげで…

その笑みも、何かを後悔するような力ない笑みだった。




「…麗奈はあんたに迷惑かかるからって言わなかった」

「…」



何だよ…


何でその肝心なとこを言わないんだ?
いつでも言えるチャンスはあったよな?


何で?どうして?
なんであいつは肝心なことは話さないんだよ…!





ふと、あの体操服を思い出す。


やっぱりあれは、思い過ごしなんかじゃなかったんだ。あの時から、始まってたのかよ…。




でも、怖かったんだ。


嫌がらせなんかされていない…、そう思いたかったんだ…。

何で俺が思うんだ、って感じだけど…嫌がらせなんか受けてたら、あいつきっと離れてく…。

そう思ったら怖くて…


守ってやれる自信もなくて、気付いてやれなかった。


いや、気付かぬフリして逃げてた。




「…俺…、まじだせ…ぇ…」

俺は無惨に傷付けられた机をなぞりながら


呟く。









「…ごめん…。本当に…ごめん…」




机の上に、謝りながらも。
瞼を閉じれば、あいつの笑顔が浮かび上がってきた。


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