君がいるから。
3月
やっぱり小学校3年生にもなると、それなりに恋愛にも目が行くお年頃らしい。
この頃はあの子の好きな子は誰だ、とかあたしが好きな子はあの子だ、とか…とにかくそんなピンク色の話がクラス中に飛び交っていた。
もちろんあたしだってそういう事に興味がなかった訳じゃない。
ただ、男の人が…"男"っていう生き物が昔から苦手だった。
自分が誰かを好きになるなんて、有り得ないと思った。
だってあの男の人のごつごつとした大きい手。
あたしをじーっと見つめてくるいやらしい目。
それから、威圧感を漂わせる低い声。
からかってばかりの言葉を発する口。
全てが嫌いだった。
…でもね?
今なら分かるよ。
ごつごつしているのは頑張って働いた人の手。
目だけは今でも苦手だけど…。心地よい、包み込むような、男の人独特のテノール。
それに、困った時は優しい言葉を掛けてくれる口。
全部貴方に触れて分かった事なんだよ。
あたしは貴方を1人の男として見てた。
でも貴方は違ったんだよね。
あぁ、もうすぐ夏がやって来る。