月の下でキスと罰を。
「き、気味が悪い」
「蘭子さん」
「だって」
蘭子は、子供みたいに頭を振っていた。
「夢を見るようになって……この子が歌を唄っている夢」
聞き返す言葉は無かったけれど、少し伸びた髪をかき揚げて、瀬良は蘭子を見た。
「あなたの家で、よくかかっている歌よ……アヴェ・マリアって歌詞だけの、なんだか切ない歌」
「……歌?」
瀬良を想って、想いながら歌を唄う。それが蘭子の夢の中に入ってしまったのだろうか。帰りたいという気持ちがそうさせたのだろうか。
「アヴェ・マリア、か……」
あなたの元に帰りたくて、あたしは毎日想っている。