月の下でキスと罰を。
あたしは瀬良に優しく抱きかかえられたまま、歩く速度に合わせて過ぎゆく街並を見る。知らない場所と知らない空気。知らない風が頬に当たり、瀬良の歩く振動が心地よい。
瀬良は、自分の車を持っていない。だから蘭子の家を出てから、電車に揺られて家に帰った。二人で帰った。
あまり混んではいなかったので、長い椅子の端のほうに二人で座った。瀬良は、あたしが電車の揺れで倒れてしまわぬように、背中腰に手を添えている。
車内に居る人達は、瀬良とあたしを珍しそうに見て、やだーとか、キレイねとか、見ちゃだめだろとか、キモイとかコワイとかアブナイとかヤバイとか、電車のガタタンゴトトン、の合間に視線とその他の、囁き声と視線。ガタタンと、ゴトトンの合間に。視線と囁き声。笑い。何度かドアが開いて何度か人が乗ったり降りたり、視線と囁き声。
そして、瀬良を見るいくつかの女の視線と吐息。隣に瀬良の体温、周りの囁きは変な感じだし、幸せだけど悲しくなったあたしは、いまこの視界に入る人間みんな、焼かれてしまえばいいのにと思った。
あたしが着ている白いドレスは、電車の動きに合わせて裾がヒラリ、ユラリと揺れている。