月の下でキスと罰を。
若き天才人形師。瀬良はそう呼ばれた。
元より、派手さを瀬良は好まない。だから来客も、受ける「しゅざい」も多くはなかった。でも、人目を引くその容姿と雰囲気が、一人になることを許さない。
あたしはまた、彼の薄暗い家で暮らすようになる。
四畳半の工房の片隅で。
瀬良は再び一人で家に居るようになり、主に人形を作る生活に戻っていた。
蘭子の姿を見なくなった。代わりに、瀬良は顔が細くなって痩せてきていた。あたしを、蘭子の所から持って来ちゃったから。売ったのに返して貰ったから。またお金の無い生活に戻ってしまったんだね。
痩せていく瀬良を見るのは少し悲しかったけれど、一緒に居られる幸せは何にも代え難かった。あたしは満たされていた。