月の下でキスと罰を。
 話せないあたしは、じっと瀬良を見る。


 少しだけウエーブがかかった、腰まである漆黒の髪を指で梳きながら、瀬良はあたしを見て、少し微笑む。

 細いあたしの体は、関節も頬も熱くなる。 

 四畳半の部屋。瀬良の作業台だけ照らす照明に、白い腕や足。
 

 なぜ、あたしにこうやって考えたり、思う心があるのかは分からない。感触があったり匂いを感じたりもできる。気付いた時にはこうだった。でも伝える術は無く、体は動かず、血も流れず。


 瀬良だけをじっと見ている。



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