月の下でキスと罰を。
今から2年前。
目が覚めて最初に目にしたのは薄暗い天井。そして黒い髪の美しい男と目が合い、指の暖かさに涙が出そうになった。けれど我慢した。
それが瀬良光司との出逢い。
それから、なんだか広い部屋で、あたしは綺麗な白い服を着せられて置かれ、近づいたり離れたりしていく人々を見ていた。皆同じく、あたしを見てため息をついたりしてうっとりしていた。
「あの、あそこにいる子は? 名前なんかはあるの?」
今思えば、それは展示会。瀬良が友人達と合同で開いた展示だ。絵や詩、そして瀬良の作る球体人形。
あたしは、その展示に合わせて作られた人形だった。
他にも人形は作ったのだが、あたしが中心に飾られていた。
名前はあるのかと聞いてきた女が、ずっと瀬良ばかりを目で追っていたのは知っていた。