月の下でキスと罰を。


 暗くなってから、玄関が開く音。きっと瀬良だと思う。

 少しの間のあとに、再びドアの音がして、またしばらくたってから物音と、知らない声がいくつか聞こえてきた。

「どこか触りましたか?」
「落ち着いてください」
「お知り合いの方ですか?」
「何か身元の分かるもの」

 よく、遠くから聞こえてくる、サイレンの音、今日はこの家の前で止まった。

 そして、ぶら下がっていたカヨの体は、同じ服を着た数人の男達によって降ろされる。止まったまま、動かなかった。少しだけ見えた顔は、紫色。あのきつい目は閉じられたまま。

 まだ、瀬良の姿が見えない。

「瀬良さん、ホンダ カヨさんはご友人ですね? 帰宅した時に、すでに吊っていたと」

「……は、はい……カヨが」

「分かりました。では、一緒にいらしてください」

 瀬良の声と、男の声。

 それだけが聞こえて、あとはガタガタと人間達の歩く音、そしてまた家にひとり残された。


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