月の下でキスと罰を。

「タイトルと一緒です。月、です」

「……月」


 そうなのか、あたしの名前は月というのか。

 その名で呼ばれるのはその時が初めてだったので分からなかった。

「素敵ね、とても気に入りました」

 素敵、と言われて瀬良はとても嬉しそうな笑顔だった。


 女は、あたしを買いたいと言ったが、瀬良は悩んでしまった。

「うーんと、売るつもりで作ったのではなかったので……僕以外は学生達のお遊び展示だし」

「そう、でも本当に素敵。返事は来週まで待ちます」

 そう言い、女は去っていった。彼女は蘭子と名乗った。

 茶色い髪を肩で揃え、真っ赤な唇と真っ赤な爪、そして黒目がちの丸い目が印象的な女だった。肌のくすみが気になる、瀬良よりも少し年上かと思う。左手の薬指には、あたしは見たことの無い光るものがはめてあった。



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