月の下でキスと罰を。
 呼び鈴が鳴り、瀬良は玄関へと向かった。

「ご足労おかけして」「いいえ」瀬良の声と、蘭子の声とが交互に聞こえる。


「こちらです」

 聞き慣れた足音と、瀬良の声。ついに来たと、あたしは背筋が凍ったような気持ちになった。嫌だ、嫌だ。

「この子、特別なんです。初めて満足のいくドールができた」

 瀬良の手が、あたしの頬を撫でている。

「この子は、生きてるみたいに人を見る」

 知ってる。生きてるの反対が死ぬ。あたしが生きているなら、他の人形達は死んでる。話さないもの。

「……大事にしてあげてください」

「分かりました」

 そして女のヒールの音。コツンコツンと硬い音。

「これからも人形、作ってね。私が援助します」


 細い尖った爪、それは赤く塗られていてあたしの肌に触っていたけれど、気持ち悪くて払いのけたかった。


「……生活、楽ではないでしょう。嫌でなければ」


< 8 / 88 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop